シャーロック・ホームズ(Sherlock Holmes)シリーズの傑作『赤毛組合(The Red-Headed League)』にはこんな記述がある。
そこからちょっと歩いたところが、サックス・コーバーグ・スクエア、朝方聞かされた奇怪な事件の現場である。狭く苦しくちっぽけな、落ちぶれながらも必死に見栄を張っているといった感じの場所ですすぼけた2階建ての煉瓦造りの家並みが柵を巡らせた小さな空き地を四方から取り囲んでいる。わが赤毛の依頼人が質屋を営んでいるのはこの家だと知れる。ホームズはその店の前で立ち止まると首をかしげ細めたまぶたの間から目をきらちと光らせては、周囲をひとわたり見渡した。それから鋭い目をじっと家並みにそそぎつつゆっくりと通りを角まで歩いていきまた引き返してきた。最後に質屋の前にもどると持っていたステッキで2,3度勢いよくたたいてみてから店のドアにもどってノックした。
この作品の舞台はロンドンのフリート街(Fleet Street)。
ここには「ジ・オールド・チェシャ―・チーズ(Ye Olde Cheshire Cheeze)」という名前の歴史のあるパブがある。
開店は1667年、ロンドンの大火が1666年なのでその翌年である。再建と書かれているので実際の創業はもっと古いのだろう。
創業以来からの国王の堂々たるリスト。チャールズ2世の御代から始まり絢爛たるジョージ王朝時代を経て、現代に至る。もちろん現在は、エリザベス2世。
この店にはホームズの生みの親である作家のコナン・ドイル(Conan Doyle)も通っていたという。地下は2階まであり穴蔵的なムードがいい。ここで定番のFish&Chipsを注文。
ビールはもちろん、サミュエル・スミス。こちらもヨークシャー生まれの地ビールで創業1758年の老舗である。
さらに地下2階に進む。穴蔵ムードはさらに高まる。
ホームズがこの通りに現れて、店の前でステッキで地面をたたいたのは、地下に掘り進められていた銀行強盗のためのトンネルの進行具合を確かめるためだった。ドイルもこの穴蔵のようなパブでビールを飲みながらホームズ物の小説の構想を練っていたに違いない。