とある地方の町で私はある人と夕食を一緒にすることになっていた。待ち合わせの時間まで少し間があったので駅前のカフェで時間をつぶすことにした。
いつものようにアメリカンコーヒーを注文して奥の喫煙室に向かう。扉を開けて灰皿を手に椅子に座って煙草に火をつけようとしたその時、胸騒ぎのようなものに襲われた。いつもと何かが違う、と。それは、目の前のこの表示であった。
しばらく見ているうちにその言わんとすることが理解できた。ここは何でもいい喫煙室ではない。ここは電子タバコ専用の喫煙所であり、紙タバコは禁止である。そして周りを見渡すと確かに奥にもう一つ扉があり、そこには紙タバコが吸えるという表示がある。
なるほど。ご丁寧に喫煙所も2つの部屋に区切られているのである。私はさらに奥の部屋に入りすごすごと紙タバコを吸った。よくみるとこの部屋には電子タバコ禁止の表示はない。電子タバコはどちらでの部屋で吸っても構わないのである。紙タバコ族だけがさらに一段奥に追いやられたということである。電子タバコとの差を見せつけられた気がした。
かって紙タバコだけの時代から電子タバコが登場し、今のところ喫煙所で一緒に共存している。今後電子タバコが普及していくと電子タバコしか知らず、さらに紙タバコの煙が嫌いな世代が登場してだんだん勢力を拡大してくるだろう。そして彼らはどちらかというと禁煙席側と友好関係を持つのではないか、そちらと連携して紙タバコ族と対立してくるのではないか、そんな不安が脳裏をかすめた。
ただこのカフェのようにふんだんに部屋を設けられるのは地方都市ならではの事情であり、都心部はまだまだ難しいに違いない、と負け惜しみのように思った。