駅前の通りを西に向かって歩いていく。小さな繁華街を抜けるととたんに町の明かりは途絶え、町並みも人通りも寂しくなる。それにめげずに歩いていく。ちょうどあきらめて引き返そうかと思う微妙な距離にこの居酒屋がある。それはまるで長旅で疲れ果てた船を迎える夜の港の明かりのようである。
客は私一人。繁盛しているとはお世辞にも言えない。
店の前にあった空き地には最近大きな病院が建ったらしい。病院に来る人たちは居酒屋に寄ってはくれませんね、と笑ってマスターが言う。奥さんもいつか景気は戻るはず、と明るく応対してくれる。
本日のおすすめから、ほたるイカを注文。
そして今日は特別に、ここで小さな秋を見つけた。
ほろ酔いしたところで懐かしいこの店に別れを告げ、秋の冷たい小雨が降る中、再び夜の海へ船出したのであった。