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君がすべきことはただ一つ、ニューヨークへ行くことだ -ジャック・ケルアック

皿みそ

 徒然草の第215段にこんなエピソードがある。

平宣時朝臣が、年老いて後、昔語りに、「最明寺入道(五代執権北条時頼)が、ある宵の間にお呼びになる事があったので、「すぐに」と申しながら、しかるべき直垂がなくてあれこれしている間に、また使いが来て、「直垂などがございませんのですか。夜であるのでどんな格好でも構いません。すぐに」とあったので、よれよれの直垂を着て、普段着のままで参上した所、銚子に素焼きの器を添えて持って出て、『この酒を独りでいただくのが物足りないので、来てくださいと申上げたのです。肴が無いのですが、人が寝静まっています。肴になるような物はないか、どこまでも探してみてください」とあったので、脂燭をさして、すみずみまで探し求めるうちに、台所の棚に、小さな素焼きの器に味噌が少しついたのを見つけて、『これぞ見つけ出しました』と申し上げた所、『十分です」といって、こころよく何杯も酌み交わして、上機嫌になられた。その時代は、万事こんなふうでございました」と申された。

 

 友人とどうしても酒を酌み交わしたい夜がある。早く来てほしいと使いの者をなんども差し向けて催促する。恰好など気にしないでいいから、という。位の高い人であるのに、寝静まった家人を起こすにも忍びないので、酒の肴をこっそりと台所で探し回る。そこで皿にちょっとした味噌が残っているのをみつけてそれだけで二人で夜遅くまで酒を酌み交わす。

 

 これを名付けて皿みそ、酒飲みの極意と美学がすべてここに凝縮されている。

 

 先日ちょっとしためでたいことがあり、古い友人にそれを手紙で伝えたところ、これがお祝いの品として送り届けられた。

 

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 かつては恋敵でもあったその友人のことを思い出しながら一人で酒をたしなんだ。肴は皿にもったお祝いの味噌だけである。外は季節外れの雨が音もなく蕭蕭と降っている。一人思い出にひたるにはまさにうってつけの秋の夜であった。

 

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