まず、あらためて問題を整理する。
<K駅への最適アプローチ問題>
前回の議論では一定の速度αで移動した場合においては、Kは速度αによらず、
となることを示したがこれをさらに一般化して、電車の到着は気にせず時間的な変化を含む任意の速度α(t)で移動した場合を考える。
まずTであるが、駅前通りを移動するのに必要な時間はt0なので、駅での待ち時間の期待値5を加えて、
となる。Lについてもう少し計算すると、
ここで、α(t)の定義である、
を上式に代入すると、
この積分の項は明らかに駅前通りの距離Dを表しているので、
となる。D/v0は駅前通りを歩行する場合の時間なので10となる。これより、Kを計算すると、
となり、時間変化を含めた任意の速度α(t)に対しても、Kは固定値15となることがわかる。どのようなアプローチ速度の工夫をしてもK値の改善は行えないことが示されたことになる。
唯一残された工夫の手段は移動中に電車が見えた場合の行動を変えることである。
移動中に電車が見えたときにはそれには乗車できずさらに10分後の次の電車に乗ることになる。したがってその時点でもう駅に向かって急ぐ必要はない。ゆっくり歩いていけば必ず次の電車に間に合うのである。電車到着という情報を活用することで省力化が図れてK値は改善することが期待される。
このケースでのK値の改善量ΔKを計算する。この場合、待ち時間の期待値(T)については最後を歩こうが走ろうが次の電車であることが見えているので変わらない。改善するのは疲労度(L)の方だけである。少し複雑な確率計算によって、
が得られる。改善量は走る速度αの2次関数となる。この改善の様子を下図に示す。
α=0.5、つまり歩行速度の2倍のときに最小値K=13.75をとることがわかる(約10%低減)。α=0,1の場合はK=15となり効果はない。これは次のように定性的に理解される。α=1(歩行速度)の場合は効果がないのは明らかである。α=0の場合は速度は無限大に近づくが、そうするときわめて短時間で駅まで到着してしまうので電車の到着を見つける確率がほとんど0になってしまうことで効果がない。こうして0と1の間に最適な値が存在し、それがα=0.5である。
以上の議論から「駅前通りを歩行速度の2倍で走り始めて、途中で電車の到着が見えた場合には歩行に切り替えるという手法が最適であり、一定速度の場合に比べて10%程度の効率化が可能である」ことが証明された。
この議論は前提で示した疲労度の定義に大きく依存する。これは個人差や主観に左右されるので注意が必要である。走ることにまったく苦痛を感じない人は疲労度(L)を無視しても構わない。その場合は、
となり、速く走れば走るほど待ち時間は単純に短縮できる。α=0の場合は瞬間移動(テレポーテーション)を意味するがそのとき、待ち時間は5分まで短縮できるのである。