その古ぼけた教室の床は老朽化が進んでいて、その表面はまるで波が立つように歪んでいた。
そのため机はいつでも一本の脚が浮き上がって安定せず、机の上で重心を移動するたびにガタっと音を立てる。授業中は教師ににらまれる。給食の時間はビンの牛乳がこぼれそうになる。仕方がないので机をそうっと動かして4つの脚がきちんと床に着地する場所を探すのである。
今回はそんな困ったときに心強い味方になるであろう次の定理を証明する。
【古ぼけた教室の机のガタツキ定理】
表面が任意の形で波打つ床面に置かれた4脚の正方形、長方形の机には必ず4脚ともにきちんと着地して安定する場所が無限に存在する。
ここでは机が傾いていてもガタつかなければ安定であるとみなす。床には凹凸があっても段差などはなく連続で滑らかであるとする。さらに4脚が作る正方形、長方形は幾何学的な定義に忠実であると仮定する。
数式は一切用いずに直感だけで証明を試みる。
机の脚の点をA~Dとする。どのような場所においても4個中3個は着地できるので最初の状態では着地点をA~Cとして、Dが床から浮き上がっているとする。これをゆっくりと180°回転させる。
回転後の着地点をA,C,DとしてBが浮き上がっているとする。回転の途中においてはA,Cを含む3点がいつでも着地しているように注意してながら回転させる。
最初と最後だけ見比べると浮き上がりの場所がD→Bへと入れ替わる。この回転の途中で何が起こるかを考える。
このBとDが入れ替わるタイミングは微妙である。が、明確で重要な事実が一つある。それは「Bが浮き上がる直前においてDは床に着地していないといけない」という事実である。なぜならば「3本は常に着地している」という前提があるからである。Bが浮き上がる直前にDが浮いているとするとその瞬間は2本しか着地していないことになり、その前提が崩れてしまう。これより、この回転の途中で4脚とも着地する安定点があることが示された。また、この議論では机を最初に置く場所を規定しておらず、それは教室内に無限にある。よって4脚が安定する場所も無限に存在するのである。