★Beat Angels

君がすべきことはただ一つ、ニューヨークへ行くことだ -ジャック・ケルアック

木枯らし紋次郎に必要なものはすべて人生から学んだ。あ、逆か。

 小学校の夏休みの宿題に「動くおもちゃ」というテーマの自由工作があった。それは回転運動を直線運動に変換するいわゆるカムの原理を応用したおもちゃであった。僕は楕円型の円盤を回し上に載ったサーフィンの人形が上下に波乗りをするというものを製作した。回転軸を楕円の中心から微妙にずらすことで、不規則で優雅な波の動きを演出した自信作であった。夏休みが終わってみんなは風呂敷に包んだ宿題を片手に登校してきた。

 教室に入ってみると同級生のアキヒロの席にみんなが集まって騒いでいる。僕も同級生たちの背中越しに覗きこんでみた。アキヒロの机の上には彼の作った工作の宿題が乗っている。そしてアキヒロによる実演。同級生たちから歓声があがった。僕もあっけにとられた。そして完全に負けた、と思った。それはどんなおもちゃだったかというと、

 

 

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 浴衣の帯の一端が水車に固定されている。水車に取り付けられた把手を回すと浴衣の帯が水車に巻き付いていく。人形はくるくると転がりながら、浴衣がはだけていき最後は裸になってしまう、という大胆なものだった。

 このアキヒロのおもちゃは教師(女性)の知るところとなり、すぐに没収されて職員室の奥深くに消え去った。それがその後どういう運命をたどったかは定かでない。

 このおもちゃの意味するところを知らないで単独の作品として評価したらそれは確かに変態へのプロセスに見えることは間違いない。他の子どもへの悪影響を考えると没収は適切な処置であったと言える。しかしこのアキヒロのおもちゃはそんな単純なものではなかった。

 

 小学6年生の当時、僕たちのヒーローはまさしく木枯らし紋次郎であった。それまでのヒーローと言えば、怪獣や悪人を退治する正義の味方だった。僕たちは紋次郎の「あっしには関わり合いのねえこって」というクールな生き方と決して恰好がいいとは言えない太刀さばきに新鮮なあこがれを抱いていたのである。

 アキヒロのおもちゃは紋次郎の「夕映えに水車は軋んだ」という回のラストシーンを忠実に再現したものであった。その回の中で紋次郎は女(ゲスト:大原麗子)の着物の帯が風に揺れているのをトレードマークの長い楊枝を吹き飛ばして水車にくくりつけたのである。おもちゃの方の帯は虫ピンで水車に取り付けられていた。虫ピンは紛れもなく紋次郎の長い楊枝を模したものである。

 

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  僕の作った波乗りの工作はクラスで金賞を受賞した。だがアキヒロの幻の作品の真価を理解し、惨敗を感じ取っていた僕にはさほどうれしいものではなかった。むしろ負けるべくして負けたことに対する心地よい爽快感の方がそれに勝っていた。