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サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

缶ビールの重心定理

 ビールのおいしい季節になった。缶ビールをあけたとき、その重心の高さはほぼ中央の高さにあるだろう。ビールを飲み進めるにしたがって当然重心は下がっていく。どこまでも下がるかというと缶そのものの重さもあるのでそう簡単でもない。完全に飲み干してみると缶の重さに従ってやはり重心はまた中央の高さになっているはずである。となるとビールを飲み干す課程でどこかに重心の高さが最も低くなる場所があるということである。
 この様子を下図に示す。
 

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 本稿では、ビールを飲んでいく過程で重心位置が最も低くなるビールの液面の高さx0とその時の重心の位置h0を求めることとする。
 
 缶ビールにおけるビール(満杯時)の質量をM、缶の質量をmとする。缶ビールの形状を理想的な形を想定すると、ビールの液面のxと重心位置hは下図のようになる。

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 缶だけを考えると質量はmで固定であり、重心は高さ50%の位置にある。ビールだけを考えるとビールの高さxに対して質量はxM/L、重心はその中央x/2の高さ位置にある。これらの2つからなる全体の重心位置hを加重平均から求めると、
 

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となる。これは、

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とおくことで、

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と整理できる。この式を分数展開してx微分すると、 

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となる。これを0とするxの値x0の時に重心の高さhは最小値h0となる。実際に計算してみると、

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が得られる。具体的な例で計算する。缶の質量を35g、ビールの質量を350gとすると、α=0.1なので、

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約23%注いだときに重心はもっとも低くなる。この時の重心の高さh0数値計算で求めると、

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となり重心の高さも23%に位置する。この2つの23%という一致は偶然であろうか。意外なことに、これはどんな場合でも必ず一致する。実際にx0の式をhの式に代入して最も低い重心位置h0を計算してみると、

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という美しい式が証明される。これより、缶ビールの重心に関する次の定理が得られた。

 

▮缶ビールの重心定理:
缶ビール全体の重心の位置が最も低くなるところまでビールを注いだとき、その時の重心はちょうどビールの液面の高さの位置にある。

 何気なく飲んでいる缶ビールであるが、その缶とビールの間にはまるで示し合わせたような美しい協調関係が成立していたのである。