このシリーズの締めくくりとして、
を複素関数として定義したときに、この関数値が実数となる、あるいは虚数となるxの条件について考察する。
■xが実数の場合
まず、x>0の実数の場合、f(x)が正の実数となるのは自明と考えてよいであろう。x=0の場合のf(0)についても=1、つまり実数となることもわかっている。
では、xが負の数の場合はどうなるであろうか。
について考える。複素解析を用いて計算すると、
i)αが整数(=n)の場合、
となり実数であることが分かる。nが増えるにしたがって正負で振動しながら急速に0に収束していく。
ii) αが整数+1/2(=n+1/2)の場合、
となり虚数となる。
iii) i)、ii)以外の場合、f(α)は一般の複素数となる。
f(x)が実数、もしくは虚数とするxのことを実点、虚点と定義する。ここまでの議論により、実数xについて実点、虚点の存在位置を図示したものが下図である。単位円周辺の代表的な点も書き加えている。
x<0においては、1/2の間隔で実点、虚点がきれいに並ぶ。
■xが一般の複素数の場合
続いてxが一般の複素数の場合に拡張する。そのために、
という極表示を行う。これに基づきf(x)を計算してみると、
が得られる。これを同じくf(x)の極表示である、
と対応付けすると、(r, θ)→(R, φ)の関数f(x)による変換においては、
という関係式が成立する。関数値が実点、虚点の判別のためにはφの式が重要となる。それはnを整数として、
という対応関係が成り立つからである。
これを一般的に解くことは難しいので、rのいくつかの具体例でグラフ表示してみる。
r=1/e(~0.37), 1, e(~2.72)の場合を以下に順に示す。
i) r=1/e(~0.37)の場合、
ここで実点、虚点となるφの条件を記載してグラフとの交点を求めるとそれが実点、虚点に対応する。r=1/eの場合は、実点が2個、虚点が1個だけである。ちなみにθ=0の点はrの値によらず常に実点である。これはf(x)=x^xがx>0の実数に対して常に実数であるという事実に対応している。
ii) r=1(つまり単位円)の場合、
r=1のとき、実点は5個、虚点は4個である。
iii) r=e(~2.72)の場合、
r=eのとき、実点が16個、虚点は13個である。
以上3つの場合について実点、虚点の存在位置を複素平面上で示してみえると下図となる。
これらはまだrが~2.7と小さい場合だけを選んでいるので、rlogrに対して2πrの方が大きく、点は第4象限に集中する傾向がある。rが大きくなるにつれて、次第にrlogrが支配的となっていき図中に成長エリアと示した部分で実点、虚点が生成されていき、実点、虚点は全体的に均一に分布するようになる。このrの増大に対応した成長エリアの振る舞いを下図に示す。
このようにして実点、虚点ともに数が増大していく。そしてこの生成過程を重ねることで実点、虚点の数はほぼ同等となっていく。
iv) rが非常に大きい場合、
例えば、
などの場合、φの第2項は無視できるので、
となり普通のsinカーブに近づいていく。具体例としてr=100,000の場合を図示すると、
成長エリアA, Bはそれぞれθ=π/2、3π/2の位置に近づいていく。また実点、虚点の数はrlogrに比例して増加していく。r=100,000の場合の実点、虚点の数はそれぞれ1,500,000個程度である。rの増大に対応して半径rの円周の長さは2πrに比例して増加していくので点密度を荒く見積もると、
つまり、logrのオーダで緩やかに増大していく。
■まとめ
以上より、複素数に拡張した関数、
の実点、虚点について以下のことが分かった。
(1) x≧0のすべての実数は実点である。
(2)x<0の実数についてはx=-n/2(n:正の整数)の場合だけ実点、虚点となり、
それらは実数軸上交互に現れる。
(3) 任意のrの複素平面の円周上に実点、虚点は有限個、かつほぼ同数存在する。
(4) rが大きくなるにしたがって実点、虚点の数はO(rlogr)で増加する。
(5) 実点、虚点の数の円周上の線密度はO(logr)で増加していく。