★Beat Angels

君がすべきことはただ一つ、ニューヨークへ行くことだ -ジャック・ケルアック

旅立ちの朝

 ある日、優子は箪笥を整理していて、引き出しの奥にしまいこまれていた古い人形を見つけました。

 

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 まだ、歩くこともままならないほど幼いころに、今は亡き祖母が買ってくれたものです。その頃はいつもその人形と遊んでいましたが、優子が学校に入って友達と遊ぶようになると人形は忘れ去られて、いつしか箪笥の奥に静かに眠るようになったのです。

 優子は考えました。

 -この人形と夢中で遊んでいた頃は、この人形は私のお姉さんだった。そして今日、久しぶりに再会したけれど、今では私の方がお姉さん。この会うことのなかった歳月の中で私はこの人形の年齢をいつの間にか追い越したんだ。でも、それはいつのことだったんだろう。

 優子は想いをめぐらしました。いろいろな思い出がいっきに押し寄せてくるようでした。優子は思わず人形を抱きしめて、涙をひとすじだけ流しました。

 ある秋の日のこと、優子にとっては旅立ちの朝に起きた小さなお話でした。