デパートでエスカレーターを使おうと思い、それを探し当ててはみたものの上り下りが反対側だったのでぐるりと廻らないといけなかった、ということは誰しも経験があるに違いない。そんなエスカレーターの数理についての話題である。
ここで取り上げるエスカレーターとは、
のようにフロア間に上り下り一基ずつエスカレーターが配備され、上り側と下り側がちょうど反対側にあってその移動には時間がかかる、という構造のものである。
まず、位置を定義する。上図に例を示した通り、位置xはフロア番号と上り下り側の情報よりなる2次元の情報である。
続いて、操作素Fとしては次の3つが考えられる。
今回のエスカレーター構造のようにある位置で上り、下りを選ぶことはできないので、目の前に存在するエスカレーターに乗るという操作を定義する。上るか、下るかはその位置に依存するということである。
今、現在x1の位置にいる人が上記の一連のn回の操作(F1,F2,・・・,Fn)を行ったときの新しい位置をx2とすれば、
という関係式が成り立つ。作用素は順に右から左に並ぶ。各作用素について考える。まず簡単なSである。
Sは2回連続で繰り返せば打ち消しあって元の位置に戻る。Sの逆作用素S-1を考えると、それは自分自身に等しいことになる。
作用素A,S,Eについての代表的な関係式は下記となる。
連続してエスカレータにのる操作に関しては
となる。Aの逆作用素A-1については、
と上記のA,S,Eに関する第一式を比べると、
であることが分かる。これは今使ったエスカレーターを逆戻りしたい場合に相当する。この表式は急がば回れという格言を表現している。またさらにS-1については、
という対称性のよい式も得られる。
続いて、A,S,Eの具体的な表現を考える。まず位置xを2次ベクトルで定義する。
ここでフロアの番号はヨーロッパ式、つまり「0階」が存在するものとする。こうしおくとフロア番号は整数として定義できることになって便利である。
例えば、xの初期値x0などは、
「0階」の上りエスカレーター位置、などとして表現される。作用素Aのもっとも簡単な例としては、
一般に、n回操作については、
が成り立つ。スタート位置を一般化すると、
となる。作用素Sについて同様に、
が得られる。作用素Sはフロア番号を変えず、上り/下りを反転させるのみである。
さて、最後に作用素A,S,Eの2x2行列表現を以下に示す。
特にAについては、
となり、n=0の場合に拡張すると、
となり、Aの0乗を定義し、それは「エスカレーターに"0"回のる」=「何もしない」であることが証明される。A逆行列については、
となる。これにより、エスカレーター作用素Aについて、
は、すべての整数nについて一般化される。