夜、狭いアパートの部屋を飛び出して夜の東京の街を駆けめぐってまた戻ってくる、それが私の学生時代の日課であった。
毎晩走っていると少しづつでも当然調子は上がってくる訳で、今晩は昨晩よりも長く走ってみようという欲が出てくる。とは言え、毎晩毎晩、昨日よりも距離の長いマラソンコースを決めるというのは意外に簡単ではない。そんなとき、走りながらこんなことを考えた。
赤丸(●)はスタート/ゴール地点を示す。
昨晩のルートの外側を走ることに決めれば昨日よりも今日のルートの方が長いはずだろう、まずはそう考えてみた。だが、すぐにそうでもないケースが見つかった。
このように昨日のコースがこのように角が「凹んでいた」とすると、外側を走っても昨日よりも近道になってしまうことがある。外側を走れば距離が長くなる、という条件を満足するためにはこのコースの形状に一定のルールが必要になるだろう、と考えられる。
その条件とは、このような「凹み」がないことであると予想される。
ここまでは多角形で考えてきたが、実際は曲線でも起こりうる。
これは素直な例であるが、
こちらでは外側のルートなのに近道になってしまう。そしてやはり図形の形状には多角形の場合と同じような「凹み」が見られる。
以上よりの次の仮説を提示する。
一つのマラソンコースAの一周の長さをL(A)、その外側でマラソンコースAのつくる領域に踏み込まないマラソンコースをB、その一周の長さをL(B)とする。ここで領域に踏み込まないということについては、同一線上を進むことは許容、踏み込んでいない、と考える。このとき、
1. マラソンコースAが作る図形が凸多角形の場合、
L(A)≦ L(B)、が成り立つ。
2. マラソンコースAの作る図形が曲線を含んで凸型である場合、
L(A)≦ L(B)、が成り立つ。
3. マラソンを日課にしている人が次の二つのルールを決めている。
ルール1:コースの形は凸多角形、もしくは曲線を含んだ凸型とする。
ルール2:ある日のコースはその前日のコースの領域の外側でその領域に踏み込まない。この時、彼のマラソンコースの周の長さは日々、単調に増加していく。
凸多角形、凸型の曲線などの定義が問題となる。
凸多角形について比較的わかりやすく、定義として考えられるのは、
1) すべての角の内角が180°以下である。
2) すべての辺を延長しても線が図形の領域の内部に入り込まない。
などである。これらを曲線に置き換えて表現すると、
1) すべての点における曲率の符号がプラス(マイナス)である。
2) すべての点の接線が図形の領域の内部に入り込まない。
となる。
今回の問題に限っては、次の定義を採用する。
周上の任意の2点における法線の交点が領域内の側に存在する
法線とは接点を通り、接線と90°で交わる線のことである。具体的に図形上で示してみる。
ここで領域内の側というのは領域内と言ってはいない。交点は領域の外になるかもしれないがあくまで領域の外側ではなく、領域内部の方向に存在するということである。
本定義は凸多角形、凸型の曲線のいずれの場合にも共通に使える。
多角形の場合の角の頂点では接線/法線が定義できないのでは?という不安があるかもしれないが、上図に示した通り法線を、その角の2等分線と定義する。
以上の定義は上記に示した角度や接線を用いた定義と恐らく同値であるが、この法線を使って定義をすることで定理の証明が容易になる。それは上の図を見れば直感的に明らかであるが、実際の証明はまた次の機会とする。