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君がすべきことはただ一つ、ニューヨークへ行くことだ -ジャック・ケルアック

狂気の山脈にて

 相対性理論を応用して10m程度の標高差の測定に成功した報告があった。


 この記事で思い出したことがある。

 地球上で実際に重力を測定しようという試みである。通常、地球からの重力は鉛直方向であるが、重力を水平方向で測定できないか、ということを考えた人が地球上を見渡して見つけたのが”山脈”であった。

 巨大な山脈の近くで、振り子をぶら下げる。振り子は山脈からの引力によって引き寄せられて傾くはずである。その傾きΘを測定して引力、そして重力定数Gを算出しようという発想であった。

 モデルを下図に示す。

 

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 山脈は半円筒の形をして無限に続くと仮定する。山脈からLだけ離れた地点に質量mの振り子をぶら下げる。地表の密度は均一であると仮定すると、この地表から露出している半円筒の部分だけの引力を計算すればいい。対称性からFはy方向成分Fyのみを有することになる。Fyを計算すると。、

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 この引力で振り子が傾くことになるが、その傾きは小さいとして、 

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 という近似式が成立する。上記のFyの式と合わせて傾きΘは下記で与えられる。

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 さて、この期待値に基づいて実際の傾きの測定が米国のロッキー山脈付近で行われた。しかし、結果は意外なことに上記よりもはるかに小さいほぼ"0"という値となったのである。

 このことは何を示唆しているか。前提とした何かが誤っていたことを示している。その後の研究の結果、その誤りは地表の密度は均一であるという仮定にあるのではないか、という仮説が提示されて未だに議論中である。つまり、山脈は均一な地表の上に単純に置かれているという形ではなく、地表以下においても地表の起伏を補償するような密度分布になっていて、起伏も含めた平衡状態にあるのではないか、という仮説である。重力を詳細に測定しようとした試みが、地球の地殻変動、造山活動のメカニズムの解明に糸口を与えたということで非常に興味深い事実である。