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★Beat Angels

君がすべきことはただ一つ、ニューヨークへ行くことだ -ジャック・ケルアック

『ペール・ギュント』

 小中学校で朝の登校時『朝』という曲を流れているのを聞いたことがある人も多いと思う。それはグリーグの作曲による『ペール・ギュント組曲』の第一曲である。この本はその原作となったイプセンの戯曲である。

 組曲の方は『朝』『オーセの死』『アニトラの踊り』『ソルベイグの歌』数々の抒情的な名曲が並ぶ名作なので原作はさぞロマンチックで感動的であろうと思っていざ、本屋さんを探してもこの本は簡単には見つからない。有名な出版社からは出版されていない。その理由は探し出して読んでみてすぐにわかった。

 まず主人公のペール、彼という人間がとんでもない。何一つ取り柄もないくせにわがまま、利己的、偏屈、虚栄心、人の迷惑顧みず、で感情移入できるところは一つもない。形式としてはペールの生涯を通じての冒険譚ではあるが、主人公はどれだけ年をとっても成長というものが見られない。破天荒に生き続けて破天荒のまま生涯を終える。

 この原作からどうしてあのグリーグの名曲が生まれたか、その理由は一人の女性の存在である。その女性は生涯を通じてペールの帰還を待っていた。そしてペールは彼女の腕の中で生涯を終えるのである。

 この本を読み始めた人は主人公に拒否反応を覚えて途中で投げ出したくなるに違いない。でも、最後まで読み通してほしい。これは母性に通じる偉大なる愛とそれへの回帰の物語である。

 勿論、こうした疲れる書物には近づかない、というのも立派な見識の一つである。