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サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

『新喜劇思想体系』(山上たつひこ)

 この本に初めて出合ったのは大学2年の夏だった。井之頭線、池ノ上駅前の小さな古本屋での出来事だった。最近、完全版が出たので購入。改めて読み返してみた。

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 一見、格調高そうにみえるタイトル、扉絵、装丁はすべて冗談の一つ。ご存知『ガキでか』の作者の成人向け版とでも言おうか、ストーリーは滅茶苦茶、内容は下品、破天荒、破廉恥極まりない。人にお勧めしたらその人の人格、品位を全否定されるようで危険でもある。これが書かれたのは『ガキでか』よりも以前。主人公の逆向春助の名前は「逆向小学校」として引き継がれた。

 逆向春助、悶々時次郎、池上筒彦、近松亀丸、若尾志麻、若尾めぐみ。

 なのに、登場人物の名前をこうして書きならべてみるとどこか郷愁めいたものを感じるのはなぜか。一話完結の連載物で、たいていは彼らに輪をかけた奇人・変人が登場して彼らを振り回したり、振り回されたり、時には国家を揺るがすような大事件も起きるのだが、そんな中で一話だけ、このメンバだけしか登場しない回がある。タイトルは『桜恋歌』。

 季節は春、桜が満開の頃。舞台は志麻が営む『おます』という居酒屋である。そこに集った彼らは居酒屋の座敷に座り、語り合い、ふざけあい、騒ぎあう。ただそれだけである。取り立ててストーリーがあるわけではない。彼らは普段もこんな風に楽しく酒を飲んでいるのか、それを感じさせて、彼らの世界を読者に想像させる作品なのである。 
 今回読み直してみて、心の一番奥の引き出しにしまい込んで忘れていた青春の残り香を久しぶりに開けて味わった。彼らはみな今でも『桜恋歌』のようにあの店にいてまだ青春を謳歌している、と。

 

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  繰り返しになるが決してお勧めしているわけではないので御注意を。