先日、ロンドンへ向かう飛行機の中で座席の前の画面にこんな絵が表示されていた。
リアルタイムで地球の昼と夜と飛行機の位置を教えてくれるものである。季節は冬、さらに冬至の頃だったので北半球は夜の部分が多い。さて、この昼と夜の境界線が描く曲線はどういう種類なのであろうか。この境界線は地球上ではきれいな円周を描いている。それがメルカトル図法に投影されたときに描く曲線を求めることが今回の問題である。一見して正弦曲線のようにも見えるがどうも上下の部分が歪んでいるようにも見える。
この曲線が季節により変動することは容易に想像できる。春分の日を考えてみると、太陽の光は地球の地軸に対して垂直な方向から差し込み、この場合昼と夜の境界線はきれいな子午線に対応する。これをメルカトル地図に投影すれば境界線はきれいな上下の2本の直線となりその時間間隔は丁度12時間である。上の絵の場合は冬至の場合であるが夏至の場合は昼と夜が反転することになる。
さて、まず、地球上の任意の点をメルカトル地図へ投影する方法を決める。
図のように原点oを中心とした半径1の単位球とそれに接するz軸方向に伸びる円筒を考える。この円筒をx軸との接点からz軸に平行に切り込み、それを開いて平らに広げる。
このときの経度方向をX軸、緯度方向をZ軸と名づける。
地球上の任意の点、(x, y, z)がメルカトル地図のどこに(X, Z)に射影するかを考える。
まず、X軸。(1,0,0)からの円周上の距離をそのままXとする。x軸とのなす角度θのラジアン表示そのままである。
X = θ = tan ^ -1 (y/x) (1)
次に、Z軸。
上図から、
Z = z / √(1-z^2) (2)
となる。以上、(1)(2)がメルカトル地図への一般的な投影の関係を表す。
次に地球上の点(x, y, z)に昼と夜の境界の条件を与える。太陽の公転面に対する地球の地軸の傾きθを導入する。
xy平面と地球の接線、いわゆる赤道をy軸を中心にx軸からz軸の方向に角度θ回転させる。これが地軸の傾きに対応した新しい赤道を示す。xy平面上の単位円上の点xは、極座標表示でφをパラメータとして、
(x, y, z) = (cosφ、sinφ、0)
で表せる。これに対してy軸を中心に角度θだけ回転させた新しい座標x'は、
(x', y', z') = (cosθcosφ、sinφ、 sinθcosφ) (3)
(3)を(1), (2)に代入して、若干変形すると、
tan X = tanφ / cosθ (4)
Z = sinθcosφ/ √ (1- sin^2θcos^2φ) (5)
この2式からパラメータであるφを消去すると次の簡単な式が得られる。
Z = tanθcosX
ここでtanθは定数なので、この曲線は紛れもなく正弦波曲線である。公転面に対する地軸の傾きは23.4°なのでθは、66.6°から113.4°の間の値をとる。θ=66.6°のときが北半球での夏至、113.4°が冬至に該当する。また、θ=90°の場合が春分秋分の日に相当する。このときtanθの値は無限大に発散することになるが、cosXの項が0となってZの発散が抑えられる。このとき、X=90°、270°という180°(=12時間)離れた2本の直線となる。
さて、飛行機で見た画面の曲線が上下で歪んだように見える件だが、実はこの図がメルカトル図法ではなく、ミラー図法であることによる。メルカトル図法では南北の極が無限の高さに発散するしてしまうのでミラー図法ではその対策として図を見やすくするために上下方向に敢えて縮む方向の歪みを加えているのである。そして、これが昼夜境界曲線の歪みの原因である。