去る12月3日、はやぶさが地球に接近してスイングバイとよばれるやり方で、小惑星Ryugu(りゅうぐう)に向かって進路を転換した。
スイングバイは地球のからの引力を利用して速度のアップと、方向転換の二つを同時に実現するやりかたである。
はやぶさの速度の公式発表によると、
- 地球最接近時の速度 :時速10万9080km(秒速30.3km)
- スイングバイ後の速度 :時速11万4840km(秒速31.9km)
- 増速分 :時速5760km(秒速 1.6.km) (約+5%)
であるとのこと。
さてこの増速分情報から方向転換角度を計算してみる。
ここで、Ub, Uaは地球から見たときのはやぶさの速度で、Ua, Ubはスイングバイ前後に対応する。地球の公転速度をVeとする。地球の外、つまり太陽系から見たはやぶさの速度(スイングバイ前後)をVa, Vbとすると、
Vb = Ub + Ve
Va = Ua + Ve
となる。
Ub, Uaについては、運動量、運動エネルギーの保存則から、地球、はやぶさの質量をM, mとすると、
(1/2)mUa^2 = (1/2)mUb^2 + (1/2) M[(m/M)(Ub-Ua)]^2
となる。右辺の第2項は地球が公転エネルギーとして失うエネルギーに相当する。
このスイングバイは地球の公転エネルギーの一部をかすめ取ることで実現している。その分だけ地球は公転運動のエネルギーを失い、速度が遅くなることになることになる。但し、地球の質量は6X10^21トン、一方のはやぶさの質量は60kg程度なので実際は全くと言っていいほど影響はない。これにより第2項は無視される。このことは地球上から見ているとスイングバイの前後ではやぶさの速さは変わらないように見えて、地球の公転の様子が観測できる太陽系的な視野に立って初めて加速しているのが見えるということである。
これより、Ub, Uaの大きさはほぼ等しいと考えてよい。これをuで表す。
この速度uは、Vb, Veを用いて、
u =√ (Vb^2 + Ve^2 – 2Vb・Ve cosα )
で与えられる。この速さはスイングバイの前後で保存される。ここで、Vb = 30.3km/s、Ve = 30.1km/sであることを代入して、
u =√ ( 918.09 + 906.01 - 1824.06 cosα )
スイングバイ後にはやぶさは、Va = 31.9km/sに加速していることから、
u = √ ( 1017.61 + 906.01 - 1920.38 cosβ )
両式よりuを消去すると、
1.053 cosβ - cosα= 0.054
となる。これが今回のはやぶさのスイングバイ前後での方向転換の表式である。残念ながら地球への接近の仕方のデータがないので、一例として図1のように、地球の進路方向に対してはやぶさが垂直方向から近づいた場合を考える。今回はVe, Vbの速さがほぼ30km/sと偶然等しいので、αは45°であると考えて上式に代入すると、
β =43°
が得られ、はやぶさは約2°だけ方向転換したことになる。
この方向転換の大小は、地球への接近距離にも依存する(図1のdに対応)。
今回のはやぶさの地球への接近は、3, 100kmであったそうだが、これをもっと低くすることで、さらに速度の加速が可能となる。
図2 スイングバイ方向転換原理 図3 最大速度を得る場合
図2はスイングバイの方向転換の原理の説明図である。Uaは大きさはUbと同一で方向が自由だとするとその始点は円周上を動く。図3のようにスイング後のUa方向を地球の速度Veの方向に向けられた時に、Vaは最大となることがわかる。今回のようなVe、Ubの速さが約30km/秒でほぼ等しい場合においては、 90°の方向転換で約2倍の速度を原理的に得ることができる。
この図からもう一つわかることは、スイングバイは必ずしも加速だけではなく、減速、さらには逆方向に反転させることも原理的には可能であるということである。
速度の増加率だけを稼ぐならば、はやぶさの速度Uaを地球速度Ve対して小さくすれば小さいほど有利なわけなのだが地球の脱出速度である11.2km/sを下回ると地球に吸い寄せられ墜落の危険性もあるので注意が必要である。