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★Beat Angels

君がすべきことはただ一つ、ニューヨークへ行くことだ -ジャック・ケルアック

虹の生まれるところ

 ちょっと時間があって漫然とテレビを見ていたら、映画「ティファニーで朝食を」を放映していた。映画の中で流れる名曲ムーン・リバーにはこんな一節がある。

We're after the same rainbow's end.
(私たちは同じ虹の端を追いかけている) 

 

 この虹の端というのは「Over the Rainbow(虹の向こう)」と似ているが違う。虹の向こうは虹のそのまた遠い向こう側であり、「Rainbow's End(虹の端)」とは虹が地面と接する場所であり虹そのものであるとも言える。

 この虹の端についてこんな思い出がある。

 

 小学生時代の雨の放課後のことである。クラスメートたちは傘をさして雨の中を駆け出していった。傘を持ってきていなかったのは僕と同じクラスの女の子の二人だけだった。取り残された僕たちは二人で下駄箱の出入り口のところで並んで雨止みを待っていた。

 学校にはすでに誰もいなくなっていて、廊下の先が見通せないほど薄暗くなっていた。僕たち二人は昇降口で何を話すでもなく立っていた。その女の子とは家が近所であったが、普段から一緒に遊んだり、おしゃべりをしたりするわけでもなかった。気まずさからふと女の子の横顔をのぞいてみると彼女は校庭の水たまりを見つめていたのだが頬を涙が伝っていた。赤いランドセルはかすかだが揺れていた。僕は理由を聞くこともできずに隣でだまっているだけだった。やがて彼女は口を開いた。

 - 山本さんちのコロが病気で死んだの。 

 コロとは飼われていた犬の名前である。僕は何と言っていいのかわからずにいた。女の子もそのまま黙っていた。やがて雨は小降りになり、校門の正面にある公民館の上に大きな虹がかかっているのが見えた。

 - あ、虹だ。
 - あ、虹。

 二人はほぼ同時に声を出した。すると彼女は虹を追いかけるように校庭を走り出した。そして残念そうに戻ってきた。

 - やっぱりだめ。虹は途中で切れてる。地面までちゃんと伸びているのを見たことないなあ。いつも探しているんだけど。
 - 今回はだめだったけど、もしもいつか虹があがってそれが地面にまで伸びていたら、その場所まで走って行って集まることにしよう。
 - 集まってどうするの?
 - そこは虹が生まれるところでそこにいけば願い事が本当のことになるんだよ。
 - 虹が生まれるってどういうこと?誰かが虹を作ってるの?
 - うん・・・そこには7人の小人がいるんだ!

 今でも僕は虹を見るたびにそれが地面まで伸びているかを確かめる。そしてこの小さな約束のことを今でも思い出すのである。

 

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