こんな夢をみた。
大邸宅に夜忍び込んで、池の錦鯉を盗み出そうということになる。そこは町内でも評判の金満一家の屋敷。僕は気乗りはしなかったが彼女に頼まれるといやとはいえない。
寝静まった満月の夜、僕は大きな池にしずかに釣り糸をたらす。糸だけで竿はない。そして餌もなく、釣り針だけ。鯉はなんでも一度は口に入れるからこれで大丈夫、という彼女の助言によるものだ。
水しぶきの音がしたと思うと釣り糸に大きな手ごたえ。僕は思い切り引き上げようとするがそれは重くてうまくいかない。しばしの綱引きのあと、糸が突然切れると同時に大きな鯉のシルエットが湖面をひるがえるのが月明かりに見えた。
帰り道、僕はとぼとぼと暗い夜道を手ぶらで歩いている。ぺたぺたという足音が後ろから近づいてくる。思わず振り向くと裸足の彼女だった。
「だめだったよ」と僕。
「鯉は背びれにぎざぎざがあって、身をよじるようにしてそれで糸を切るのよ」と彼女。
「へえ、そうなんだ」と僕。
「こりゃこりゃ、暴れるな!」と彼女。
ふと見ると、彼女は彼女の身長の半分もあるような大きな錦鯉を背中に背負っていた。鯉は身をよじって逃げようとする。そのたびに小さな彼女もそれに揺さぶられながら歩きにくそうにしているのだった。