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君がすべきことはただ一つ、ニューヨークへ行くことだ -ジャック・ケルアック

有理数の井戸

 ことの発端は、電車の中の洗剤の中づり広告でした。

 「86%の人がいいね!と言っています。」

 さて、実際何人に尋ねてそういう結論を得たのか?という疑問から始まりました。これを数学的に記述してみると、86%を四捨五入の数字であろうと贔屓目に理解して、

  問A:0.855 =< A/B < 0865 (A,Bは自然数、互いに素)
      となる最小のB(そしてその場合のA)はいくつか?

 という問題に帰着します。

 この場合の答えはB="7"です。そして、A/B=6/7です。私が思ったのは、たった7人に尋ねただけでこんな大胆な結論を導き出していいのか?という疑問でした。実際はもっとたくさん調べていてそれで結論を出しているのかもしれませんが、だったら「86%」よりももっとBの値が大きくなるようなもっともらしい%の数字を示したほうが信憑性が沸くのではないか?という義憤からくるものでした。では振り返って、「もっともらしい%の数字」とはそもそも何か?について調べてみる必要性が出てきました。それは当然、50%t(2人)か、67%(3人)とか、75%(4人)、80%(5人)とかであってはなりません。もっと大きな数10人クラスの数字になってほしい期待があります。

 ということで、1%から100%までについて、A/Bを求めることを地道にはじめました。その結果というか途中経過を示します。

 

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 1/1, 1/2, 1/3, 2/3, 1/4, 2/4, 3/4, 4/4, 1/5, 2/5,3/5...を計算し、小数点以下を四捨五入して%を計算し、最初に登場したものを1~100%のところに書いていく(赤字)という単純な作業です。最初は快調に飛ばしていたのですが、20段を過ぎたあたりからだんだん重複が多くてなかなか埋まらなくなってきました。

 23の段まで来た時に全体を眺めてふとあることに気がつきました。この段階で空欄となっている場所にある規則性が見出せたからです。空欄は100%の前後3つずつ、50%の前後1つずつ、33%/67%の中央(50%)よりに1つ、です。100%、1/1、50%は1/2、33%/67%は1/3, 2/3、というこの作業の最初で埋まる数字。そういう数字の隣、周辺はその先の作業でなかなか埋まりにくい、ということが分かります。そういわれてみると、25%(1/4)、75%(3/4)の隣も17とか19、結構後の方の段で埋まっています。

 ここで次の仮説です。前提は面倒なので省略して、

 仮説A: Nが小さいとき、1/Nは早期に埋まるがその後、周辺は逆に埋まりにくい。
 仮説B: 周辺の埋まりにくさ具合は、Nの値に反比例する。

 この時点で洗剤のことはどこかに吹っ飛んでいました。もっと数学的に重要で本質的な作業をしていることに気がついたからです。

 1/1, 1/2, 1/3, 2/3, 1/4, 2/4, 3/4, 4/4, 1/5, 2/5,3/5...という数え上げ方は、洗剤の話ではなく[0,1]の区間の中にある有理数(A/B)を網羅する手法に他なりません。このまま続けていけばこの区間有理数をすべて数え上げることになってしまうという無謀な試みに着手していたということです。

 非常に感覚的な説明となりますが、模式図を使って説明します。

 

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 原点Oから45度の角度で長さ1の線分を見込みます。線分には0から1までの目盛りが振ってあります。角度をθとすると、0~1がちょうどtanθとなって分かりやすいです。原点Oから角度θでボールを投げると考えてください。投げられたボールは線分の目盛りのtanθの場所を目指して転がっていくことになります。

 ここで、線分上、0,1の場所には深さ1の井戸があります。1/2(0.5)には深さ0.5の井戸があります。1/3, 2/3には深さ0.33の井戸があり・・・、以下同じです。これを無限に繰り返すので有理数の数だけ井戸が存在します。この井戸は近くに来たものを引き込んでしまう引力の性質があり、その引き寄せる力(範囲)は井戸の深さに比例します。

 これにより原点Oから角度θの方向に投げたボールはtanθが有理数ならばどこかの井戸に落ちるわけなのですが、深い井戸には吸い込まれやすいので、なかなかその近くには近づけないことになります。これが上記の仮説の感覚的な説明です。証明ではありません。

 さて引力とは何か?についてですが、上で説明した有理数の数え上げ方にヒントがあります。

 上記の有理数の数列を厳密に並べると、

  0/1, 1/1, 0/2, 1/2, 2/2, 0/3, 1/3, 2/3, 3/3, 0/4, 1/4, 2/4, 3/4, 4/4,....

 となるのですが、約分などで前と同じものが出てきたらそれは削除するというルールがあるので、

 ・0と等しくなる、0/2, 0/3, 0/4...は削除される。
 ・1 と等しくなる、2/2, 3/3,4/4...は削除される。
 ・1/2と等しくなる、2/4, 3/6, 4/8....は削除される。
 ・1/3と等しくなる、2/6, 3/9...は削除される。
 ・2/3と等しくなる、4/6, 6/9...は削除される。

 この後続を削除する力のことを引力と考えていただいていいです。序盤に早く出てきたほうが削除する力(数)も大きいことが分かるでしょう。 

 さて最後の問いです。tanθが無理数ならばどうなるのか?です。無理数は、たとえば0~1の間ならば、1/π、√2-1、1/√2など、A/Bの形で表現することができない数のことを言います。実は無理数の場合は、転がったボールはこの無限に存在しているはずの井戸の列をいとも簡単に通り抜けて向こう側に転がり去ってしまいます。こちらの方がもっと神秘的です。