★Beat Angels

君がすべきことはただ一つ、ニューヨークへ行くことだ -ジャック・ケルアック

僕たちの7時間戦争(三国志遊戯)


 僕が小学5年生の時の話である。僕の通っていた幼稚園は小学校の中にあった。それはすでに別な幼稚園に統合されてなくなっていたが、園舎だけは残っていた。それがここにきて園舎の取り壊しが決まったのだ。昔幼稚園に通っていた大人たちが惜しんで最後に盛大なパーティを開くことになった。

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 昼の2時過ぎに大人たちは集まって、狭い園庭でバーベキューセットを組み始めた。園舎内のひまわり組の部屋は(年少)は大人たちの宴会のメイン会場となり親と一緒についてきていた小学生達は園内のさまざまな場所で遊び始めた。

 その幼稚園には、もも組(年中)さくら組(年長)そして、おゆうぎしつがあった。これらがこの後の建国の舞台となっていくのである。

 当時、集まった子供達の中では最年長だった僕は真っ先にさくら組へ向かった。この幼稚園の最後の卒園生であり、思い入れは人一倍だったのだ。勢いにつられて他の子供達も数人さくら組へ集まり、室内にあるものの物色が始まった。

 人気が集中していたのはおゆうぎ室であった。そこに入った子供達は手に抱えるほどの大きさのぶつけても痛くないような素材のカラフルなブロックを発見していた。このブロックが国の成り立ちへに大きくつながっていった。

 ブロックを見つけた子供達は、我先にとブロックを積んで家を作り始めた。といっても座布団二枚分くらいのスペースを残して自分の周りをぐるっと囲むだけとうものだったが、豪華なものだとブロック3段積みの壁付きの家までも登場していた。赤のブロックだけ、黄色と水色の縞模様など配色にこだわった家もあらわれおゆうぎしつ以外で遊んでいた子供達もそれを見るや否やわたしもやりたい!とおゆうぎしつからブロックをせっせと運び始めた。

 そこでいい顔をしなかったのが最初からおゆうぎしつで遊んでいた子供達である。「ブロックを持っていくなら、かわりに何かをちょうだい」と条件を付け始めた。それを聞いたもも組で遊んでいた子供達は、となりのひまわり組の大人達からウインナーや焼肉を盗んできて「これと交換して」とおゆうぎしつの子供達へ差し出した。それをみていた我らさくら組の子供達も、何か交換するものを探さなきゃ!と慌ててさくら組へと引き返してきた。

 こうして子供達はそれぞれ自分の遊んでいる部屋で家を築きブロックなどの物々交換を主とした三国が誕生することになったのである。

 もも組王国は、僕と同級生の同じく小5のアキヒロを国王とするほぼ独裁国家である。おとな国から奪ってきた食料を他国民に売りつけることで利益を獲得する。

 ゆうぎしつ共和国、低学年生たちを中心に、仲良しグループが集まって築かれた国である。 領土、国民数ともに子供たちの三国中最大。おゆうぎしつの奥の用具室には様々な遊び道具や交換用ブロックが備蓄されている。

 さくら組、僕が所属する資源も何もない弱小国、国民数4人と最小国でもある

 おとな帝国、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎをこの後夜中まで繰り広げる。親たちが中心だが、こどものやっていることにあまり関心はない。

 国の個性や特色が見え始めてくると、子供たちはそれぞれの国に帰属意識を持ちもっとも頭の切れるもの、もしくはもっとも年上のものが指導者として選出された。

 僕もさくら組の指導者となり、なんとか他国と渡り合うための交換材料を探し始めた。といっても廃園となったせいでさくら組内はすっからかん。もとよりおゆうぎしつ以外は特に何もないのだが、もも組の場合は隣に大人たちがいるので資源には困っていないようだ。

 もも組の指導者アキヒロも大人たちの食料は重要だと考えたようで、他国民がおとな帝国の食料を無断で取りに行くことができないよう、廊下に検問を設置した。これでなんとなく親の元へ行きたくなった幼児以外、他国民はおとな帝国への出入りを制限されることになった。

 食料を奪う道を経たれた今、さくら組国にできることはとにかく自国にあるものの中から使えそうなものを絞り出すくらいである。国民4人全員での捜索の末発見できたのは、はさみ、のり、画用紙、マジック、こま、ダンボール、の6つだけであった。

 はさみ類は工作の時間に使っていたものの余り、こまも確か年長になると習得しなければいけないので練習用のものが余っていたのだろう。ダンボールを開けてみると、中にはおゆうぎ会で使ったと思われる衣装類。これは使えそうだと思った。

 まず他国であるおゆうぎしつ共和国に目をつけた。そこは低学年が多く女子率も高いため、この衣装類をちらつかせれば確実に釣れる。しかし衣装は小物を除くとわずか8着ほど、その上小学校低学年女子が好きそうな衣装となるとさらに数は少ない。

 そこで思いついたのが加工貿易である。ここにある画用紙に可愛らしい模様を書き、はさみでリボン型にでも切り取ればなかなか喜ばれそうだと考えた。幸運なことにさくら組には手先が器用なものが集まっていたため早速生産に取りかかった。まずはこのアクセサリーとおゆうぎしつのブロックを物々交換し、そのブロックを使ってさらにもも組王国の食料と交換するという作戦である。

 色とりどりの水玉やチェック柄のサンプル用リボンを持ち、お付きを従えておゆうぎしつ共和国へと交渉に向かった。入口には門番がいた。「ブロックが欲しいなら交換するものを!」と言われ 今から見せるから女の子達を集めてくれと頼んだ。

 家作りに夢中だった女の子の中から数人が集まり、わざともったいぶりつつリボンを見せるとかわいい、ほしいの嵐。それじゃあブロックをくれる?と言うと女の子達はそれぞれ作りかけの自分の家から余りのブロックをたくさん持ってやってきた 。

 国民数が多い上にそれを取りまとめるはっきりとした指導者がいないため こんな単純な手でブロックを集めることができたのだ。集まったブロックの数は4人で持ち帰るのがやっとなほど。元からあったブロックと足せば20個弱はあるだろう

 しかしここで油断して使いまくってはいけない。お腹をすかせた国民達の声もあり、僕はブロックと画用紙、マジック、こまを持ってもも組王国へと向かった。部屋へ入って驚いたのはそこにあったブロックの数である。大人たちから奪ってきた食料をブロックと交換しまくったのだろう。ゆうに40個は超えていた。ブロックで机を作り、その上には紙皿に乗った焼肉やウインナー、ジュースが並べられていた。その奥のブロックで作られた玉座に座っているのが国王アキヒロ(同級生)である。もも組王国の下っ端たちには取引の権限がないので、アキヒロに直接交渉する。

僕「お肉がほしいんだけど」
ア「ブロックは?」
僕「ブロックもあるけど、他のものと交換しない?」

 まずはこまを取り出し、アキヒロの前で回してみせた。アキヒロも数年前はこの幼稚園でこま回しをしていたんだから、ちょっとは懐かしいはずだろう。それに座ってばっかりじゃ暇なはずだ。

ア「こまだけじゃ交換できねぇなぁ」

 さすがアキヒロ商魂たくましい。

 そんなこともあろうかと、持ってきていた画用紙と黒のマジックをアキヒロに差し出した。アキヒロが最近ロボットの絵を描くことにハマっているのを知っていたからだ。

僕「これに『焼肉一皿ブロック○○個』とか書けばいいんじゃない?」

 あえてアキヒロの趣味には触れず、これがあれば交渉が便利になると熱弁した。国王アキヒロもついに折れた。

ア「じゃあ好きなのふた皿とジュース一つだけ持っていっていいよ」

どうせなら人数分ほしかったが、これ以上粘ると逆に何も貰えなさそうなので、素直に条件分の食料を年下の子供たちに選ばせて意気揚々とさくら組へ帰った。そして焼肉とウインナーの盛り合わせふた皿を4人で囲み、少しずつ分けながら食べた。普通に遊んで大人たちの元へ行けば熱々の焼きたてを好きなだけ食べられたが、苦労して手に入れたので、冷えた焼肉だってとてもおいしかった。小さい子達に優先してあげながらおいしいね、おいしいねと食べた。

 お腹も少し膨れたところで、新しくおゆうぎしつ共和国に売り込むグッズを製作しているといつのまにか三国間の雲行きが少しずつ怪しくなっていた。建国から3時間半ほど経っていた頃だと思う。

 おゆうぎしつ共和国では、それぞれ国民が好き放題アクセサリーや食べ物と交換するので 備蓄ブロック数が減り始め、他国に渡すブロックを節約しようという声があがりはじめた。 さらに大半の国民が腹いっぱい焼肉を食べ、当分食べ物はいらないという状況になっていた。

 もも組王国では、最大の市場であったおゆうぎしつ共和国の節約方針により買い手が激減、 さらに国王アキヒロの独裁政治のせいでろくに遊べないままこきつかわれていた王国民達の中から 自ら望んで焼肉食べ放題の大人帝国の捕虜になるものが続出した。このままではまずいと考えたおゆうぎしつ共和国は用具室を探し回った末次なる策を編み出す。

「おゆうぎしつおもしろいよ、来てください」

 とやってきた使者が声をかけた。様子見のつもりで向かうと、おゆうぎしつ全体が前にも増して賑やかになっていた。低学年生たちが協力しあい、男の子がようぐしつから跳び箱や平均台を運び出し女の子が全力で接待する、遊園地的なものが出来上がっていた。

 使者はもも組王国へも行ったので、国王アキヒロも視察に来ていた。

 おゆうぎしつでやっていたのは、アスレチック、ドッジボール、おにごっこ、かくれんぼなど。 女子はほぼアスレチックとかくれんぼ担当 、男子と足の早い女子はドッジボールとおにごっこを一緒にやってくれるらしかった。 みんな騒いで走り回りたいお年頃、しかも数時間さして動かず物足りなかった小学生達にはぴったりだ。一つの種目にブロック一個で何人でも参加できるという格安設定もありもも組もさくら組もダッシュで自国へブロックを取りに行った。 アキヒロも相変わらずお付きの下っ端に取りにブロックを取りに行かせた。

 一分も経たないうちに、ブロックを取られないように自国の入り口につけていた見張りも含め この幼稚園にやってきた子供たちのほぼ全員があつまった。真っ先にドッジボールに参加し、自国の低学年の女の子達にはアスレチックのほうに行かせた。 国王アキヒロもドッジボールに参加、おゆうぎしつ共和国民たちのヨイショもあってか試合はかなり白熱し、しばし時間を忘れた。

 しかしこんなときにも商魂たくましいアキヒロ、お付きの下っ端に何かを命令し自国から何かを取ってこさせた。この下っ端は実は国王アキヒロの妹、本来ならお姫様の立場の妹をさんざんこき使いまくっていたのだ。忠実なる妹がおっかなびっくりで持ってきたのは、お盆に載せたたくさんの紙コップである。 スポーツしたから喉渇いただろ?買えよ!という作戦だった。 おゆうぎしつの子供たちもなかなか頭がいいのだが、アキヒロのほうが常に一枚上手だ。

 のどかわいたよーとすがりついてくる子供たちを邪険に扱うことも出来ず、仕方なく人数分のジュースを購入した。共和国民達も激しい運動をしていた男の子を中心に何人かジュースを買い国王アキヒロの横で妹がブロックをいっぱい抱え立っていた。

 その後しばらく遊んだ後、一旦もも組王国民もさくら組国民も自国へ引き返すのだがここでもも組王国のほうに一大事件が起きる。 まさかの新勢力の登場である。

 国王アキヒロのもとで食料仕入れ係としてこき使われおとな帝国に亡命した元もも組王国民達数名が 焼肉をさんざん食って腹いっぱいになりもも組王国へと戻ってきたのだ。 これにアキヒロはキレた。
「裏切ったくせに、今更戻ってくんじゃねぇ!と元仕入れ係達を怒鳴りつけ、反発した仕入れ係達はもも組王国にあるブロックを持ち逃げしろくに焼肉を分けてもらえなかったおとな帝国前の門番と共謀して、新勢力「廊下の民」となる。

 これでもも組王国民が激減し、実にアキヒロ、アキヒロの妹、その友達のわずか三名となる。こうなるとこちらが有利になると思われたが、未だブロック備蓄数はもも組王国がトップ、その上おゆうぎしつ共和国民とさくら組国民にとっても対岸の火事では済まされない状況に陥る。 

 おゆうぎしつ共和国より上手だったもも組国王アキヒロ、さらにその上手を行く
廊下の民たちは、なんと持ち逃げしたブロックで幼稚園唯一のトイレの前に門を作り「トイレ使用料」を取り始めたのだ。 しばらくトイレに行っていない上にジュースを飲んでしまった子供達はこれを聞いて顔面蒼白になった。

 さらにあおるかのように「トイレは今つかえませーん、どうしても使いたいなら
一人ブロック二個です!」と叫んでくる廊下の民のせいで尿意は増す一方だった。

 しかしここでトイレに行けば負けだ、せめてもう少し値下げするまで粘ろうと三国民間に連帯感が生まれ始めたが、すでに低学年生たちはつらそうな顔をしている。こんな状況なのにおとな帝国民達が酔っ払ってトイレに来ると廊下の民たちはニコニコしながら門を通している。僕たちはみな指をくわえてみていたが、ここまでくると大人に助けを求めるのは野暮でである、という意識が芽生えていた。

 なぜか悪運の強い国王アキヒロもも組王国は人数が減ったおかげでトイレに行きたがる国民は0らしい。ブロックを持ち逃げされたものの、王国民数人をトイレに行かせるよりは安くついたようだ。

一方国民数が最も多いおゆうぎしつ共和国民の状況は悲惨。さくら組国でさえ2年生の二人をトイレに行かせることになってしまったのだから、低学年生率がさらに高いおゆうぎしつ共和国の出費がかさみまくった。こうして廊下の民は独立したことによって楽にブロックを稼げて、以前より格段にはぶりがよくなった。

 打開策はないものか・・・僕は自国にこもり策を考える。

 どの国もこれ以上ブロックを減らすものかと倹約を始め、経済が停滞してきた。何か新しいものづくりをと考えたが、今手元に残っているのは衣装類とはさみとのりと赤のマジックだけである。おゆうぎしつ共和国民達の財布の紐がゆるいときにこの衣装類を高く売りつければよかったと後悔したが時すでに遅かった。 そして考え抜いた結果、一気に形勢を逆転できるような秘策を思いついた。

 低学年二人を残し、お付きを一人連れておとな帝国のあるひまわり組へと向かった。角を曲がったところで一度廊下の民に呼び止められるもトイレじゃなくひまわり組へ行くのだと話すとあっさり解放された。

 もも組のアキヒロの目をかいくぐり、ひまわり組の扉を開けると大人たちの半数がべろんべろんに酔っ払い、腹を出して歌いまくっている者もいた。「おお来たのか!焼肉食べてけ!」という声に一瞬ひきこまれそうになるも、とにかくさっさとあるものを回収して自国に帰らなければいけない。

 教室の隅に目をやると、想像していたとおり鬼の勢いで空けられたビール瓶がたくさん並んでいた。 当時小5の僕が考え抜いた末思いついたのは、通貨がないなら作ればいいじゃないということだ。ブロックを主とした物々交換はもう古い。持ち運ぶのは大変だし、皆家の材料となるブロックを進んで使いたがらない。ここで新しい通貨を流せば、一気にさくら組国がトップへ躍り出ることが出来るはずだ、そう考えた。大人たちの許可を得てビール瓶のふたをありったけ袋につめ 他国民に怪しまれないよう腹や背中に隠しながら、走って自国へと戻った。

 待っていた低学年二人にふたのとがった部分を叩いて内側へ丸めさせ、通貨に使えるよう全員で加工を始めた。

 完成した通貨サンプルを持ち、おゆうぎしつ共和国へと向かった。トイレ占領事件によりブロック数が激減、サービス産業も停滞してきたおゆうぎしつ共和国は手を組んで新しい通貨を流通させるにはもってこいの国だ。門番もいなくなったおゆうぎしつの扉を開けると、それぞれ低学年の女の子達はおままごとに集中し、男の子は惰性でドッジボールを続けていた。 近くにいた子にちょっといい?と声をかけると、ここちゃんに聞くから待って、との返事 どこかに走っていったその子の帰りを待っていると、奥の用具室から新指導者ミカちゃん(小3)が現れた。

 ミカちゃんは小さい子、という印象だった。これで大丈夫か?と不安にはなったものの とりあえずミカちゃんとその取り巻きの子達相手に交渉開始した。

 ブロックの変わりにこれを使わない?もちろん協力してくれるならミカちゃんたちにはアキヒロのところよりもいっぱいフタをあげるからと説得にかかった。取り巻きの子達はここちゃんこれいいよ!これもらおうよと飛び跳ね始めるが、ミカちゃんは冷静に考え込んでいた。

「フタを使うのはいいけど、アキヒロ君達が新しいフタを大人からとってきちゃったらどうするの?」とミカちゃん。

 そんなこともあろうかと、僅かなさくら組の備品を使って対策を施しておいたのだ。ビール瓶のフタをひっくり返したところに、赤いマジックでしるしをつけてある。マジック自体はアキヒロのところへ持って行ったものがいくつかあるものの赤いマジックを持っているのはさくら組だけだ。

 つまり使える通貨を流通する権限はさくら組国だけが持っているのだ。これだったら偽物を使えないから安心だよ、とミカちゃんに力説すると、それじゃあいいよと快諾してくれた。

 これから加工できるであろうすべてのフタのうち、三割をおゆうぎしつ共和国へと渡し、 意気揚々とひとまずさくら組国へ引き返した。 お留守番兼加工係の低学年二人組にOKだって!と伝えるとやったー!と抱き合って喜んでいた。

 あとはこの通貨から少々をもも組と廊下の民たちにお情けで分けてやるだけだ。引き続き低学年たちに留守と加工を任せ、もも組へと向かった。するとミカちゃんに内緒で頼んでいたとおり、おゆうぎしつ共和国民はまだ買い物に来ていない。

 すかさず国王アキヒロに「新しい通貨を流通させたいんだけど・・・」とミカちゃんのときと同じことを話し2割をもったいづけて渡した。 廊下の民には「もうブロックは使えなくなったから、今はみんなこれを使ってるよ」と1割程度を渡し、再びさくら組へと戻った。

 そこから経済はもとの賑やかさを取り戻した。 皆進んで新通貨フタを使い出し、小腹が空いたものはもも組王国へ、遊びたいものはおゆうぎしつ共和国へと向かった。 さくら組国もおゆうぎ会の衣装を持ってセールスに向かい、一番可愛いドレスはフタ5つで売れるなど大もうけだった。また、唯一貨幣製造の権利を持つさくら組は銀行として機能し始めた。これを交換してほしいんだけど・・・と持ってきたものをフタ通貨と交換してやり、買い取ったものをさらに高値で他国民に売るという商売も始めた。

 我がさくら組国の時代が来ていた。

 さくら組国が経済の全てを握っているといっても過言ではない。どれくらいのお金を世に出すかも、自分達が自由に調節できるのだ。 おゆうぎしつ共和国の一角をかり、衣装やアクセサリーを並べて さくら組国の低学年の女の子二人に店を始めさせた。さすがおままごとで慣れてるだけあって呼び込みもセールストークも上手い。

 さて儲けは増えてきたがやはり在庫は減る一方、大人たちが肉を焼く限り商売を続けられるもも組王国、サービス業で成り立つおゆうぎしつ共和国、トイレ使用料で一定の稼ぎはある廊下の民たちに比べると、やはりこのシステムは脆い。

 勢いに乗ってなにか新しい、そして客の集まる商売を考えなければ・・・

 そんな時再び事件が起きた。偽通貨が出回り始めたのだ。 怪我をしないよう内側に丸める加工がされていないフタ通貨を見て怪しんだミカちゃんが裏側を確かめると、案の定赤いしるしがつけられていなかっというわけだ。おゆうぎしつ共和国
指導者ミカちゃんが直々にさくら組国まで報告しに出向いてくれた。どこの国がやったのだろうと考えてみた。おゆうぎしつ共和国はまずないとして、もも組王国にもカラクリは説明してあるので アキヒロもさすがにわざわざ偽通貨を使わないだろう。 となると必然的に考えられるのが、廊下の民だ。

 こんなことがあってはならないと僕、アキヒロ、ミカちゃんの三国の代表が集い、トイレ前を占領する廊下の民を問い詰めるとあっさり白状した。しかし向こうも言い分があるようで、「自分達も好きでこんなことしているわけではない 。アキヒロの扱いが酷いので逃げ出し、なんとか稼ごうと思ってトイレを占領したが お金はあまり増えないので仕方なくおとな帝国から盗んできた」とのこと。確かにそれは気の毒だ。 それにこちらとしても、これ以上トイレを占領されては困る。

 三国干渉の結果、廊下の民という組織の解体が決定した。

 廊下の民4人中2人はここちゃんの元でサービス業の手伝い、残りの2人はさくら組国で事業を手伝ってもらおうということになった。

 僕が考え付いた新事業とは、当時はそんな概念知らなかったが今思えばギャンブルのようなもの。 まず裏側にハートを書いたフタをさくら組国内にいくつか隠し、一番多く見つけたものが優勝、二番目に多く見つけたものが準優勝となりフタ通貨を得られる。参加者は参加料として一人あたりフタ2枚を徴収されその中の8割は賞金に、2割は手数料としてさくら組国のものとなる仕組みだ。参加者全員の同意が得られれば一度にフタ5枚などレートをあげることもできて、この事業は大成功を収めた。

 廊下の民から拾ってきた二人に準備中隠し場所をのぞく参加者が出ないよう見張りを頼み、 壁にずらっとならんだ扉付きのロッカーなどいろいろな場所に隠しまくった。

 このとき大体夜の8時、昼から続く国同士の争いの緊張感の中でみんなの不思議なテンションが最高潮を迎えていた。当然、金の使い方も荒くなる。 一人フタ5枚をかけていたときなど、一番に見つけた参加者の下へ他の参加者が突進していったこともあった。毎回大盛り上がりで手数料も儲かり、まさにさくら組国の時代となっていた。しかし三国が崩壊する最後の大事件が起きる。

 このゲームに初めのほうは女子も参加していたのだが男子の異常なヒートアップっぷりにどん引き次第に女子の参加率が減ってきていた。そんな子達がどこで遊んでいたのかといえばおゆうぎしつ共和国でなわとびをしたり跳び箱をしたり、ボールを投げて遊んだりと向こうは向こうで楽しくやっているはずだったのだ。

 事件が起こったのは何度目かのゲームが開催され次の隠し場所に悩んでいた頃、
見張り役をしていた廊下の民出身の男子が「おゆうぎしつで何かあったって!」と
慌てて知らせに来た。作業を中断し向かうとおゆうぎしつの前に大人たちが集まっていた。 ひまわり組で酔っ払いまくっていたはずなのに、ただ事じゃない何かを感じた。

 外でおろおろしていたミカちゃんに話を聞くと遊んでいた女の子(アキヒロの妹の友達)が跳び箱を飛ぼうとして顔面から落ちたらしい、それを聞いた大人たちが駆けつけ、危ない遊びはやめろ!もう帰るぞ!と言い出したということだった。しかも跳び箱の係だったはずの元廊下の民の男子は 勝手に抜け出しさくら組のゲームのほうに参加しまくっていたらしく 止める役が不在のまま跳べない高さの跳び箱を無理に跳ぼうとして落ちたらしかった。

 子供達の「お願いだからもうちょっとだけ」の声も無視され、片付けなさい!との命令が下った。 親としてはそりゃけが人が出た以上続けさせるわけにもいかないのだろう。皆、不満げなままようぐしつに跳び箱や平均台を戻し、きれいに積まれ家がわりとなっていたブロックも回収された。

 20分ほどで全ての片づけが終わり、親達の宴会ももう少しで終わるからひまわり組にいなさいと言われたとき振り返って見た明かりの消えたおゆうぎしつや廊下がものすごく寂しく見えた。

 その後ひまわり組に集まった子供たちはそれぞれ親の元で残りの肉を食べた。元おゆうぎしつ共和国指導者ミカちゃんはお母さんのところでジュースを飲み、元もも組王国国王アキヒロはまた肉を食べていた。九時を回って廃園パーティーは完全にお開きとなった。夜道を親と帰っている途中、親から今日は何をしていたのか?と聞かれて国を作ってた話をすると、それは楽しかったねと言ってくれた。

 幼稚園はその後働きかけもあってか最終的に取り壊しは免れたようでいまは公民館だか資料館だかとしてお年寄りに細々と利用されている。

 (終)