★Beat Angels

サル・パラダイスよ!誰もいないときは、窓から入れ。 レミ・ボンクール

プロビデンス探訪記(第8回)

 ファースト・バプテスト・チャーチの入り口を抜けるとトーマス街である。ここはカレッジ・ヒルズに向かう緩やかな上り坂になっている。その中腹にこの奇妙なデザインのアパートがある。 
    

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 ここは、「クトゥルフの呼び声」で登場する青年芸術家のウィルコックスが住んでいたところ。昼間に前を通り過ぎたときは、奇抜な外装だとしか思わなかったが、深夜に見るとラヴクラフトの言う醜悪さ、が理解できる。人の住んでいる気配はなかった。 


 ウィルコックス青年は、トマス街にあるフレールドリース館と呼ばれるアパートメント・ハウスの一室に未だに孤独な生活を送っていた。そこはこの古い街のもの静かな丘の上で、優美な家々が植民地時代当時のままに立ち並び、ジョージ王朝風の尖塔が鮮麗な影を落とすというまことに風情のある地域だが、一軒だけビクトリア朝期に流行した擬似17世紀フランス様式で、正面を化粧漆喰で塗りたてた醜悪な姿を見せている建物があった。それが青年の本拠である下宿屋だった。

                (『クトゥルフの呼び声』より引用)

 
 1926年、ラヴクラフトはニューヨークからプロビデンスに戻る。そして、バーネス10番地のアパートで暮らしはじめる。理由は妻の帽子店の商売の失敗による。
    

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 左右対称で2家族が住むことができる。3階は屋根裏で天井の高さも低い。そしてなぜか3階へ外から回れる階段が続いている。これはまさしく「エーリッヒ・ツァンの音楽」でバイオリニストであるエーリッヒが住んでいた屋根裏部屋である。     

 なお、このアパートでは、その後も幽霊話には事欠かない。1971年にはここに住んでいたブラウン大学の学生がアパートの中を歩き回るラヴクラフトの亡霊をみたことが新聞で取り上げられた。ジョン・ヘイ図書館が開いていればそれも調べられたのが残念である。