秋の夜長は月をみて、月に想いを馳せるなどはいいことです。
意外なことに、月をみて、月のことを長い時間考えることは容易ではありません。月はシンプルな分だけ人間に様々なことを想起させるし、そもそも人間にはそれほど邪念が多いのです。私の場合もいつしかJ.P.ホーガンの『月を継ぐもの』のこと、そしてそれに出てくる宇宙人達の知性のことを考えてしまっていました。また別に日には、ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』のこと、それもなんでこんなタイトルにしたんだろうなあ、などと考えてしまっていました。
そんな夜にうってつけの本がこれ。その名も『月の本』、全編に渡って月の写真と月にまつわるエピソードだけが書かれています。
◆月をみて月のことのみ思いけり
これを読んでいて、稲垣足穂の『一千一秒物語』の月に関する詩編を読んで見たくなりました。ひとつだけ紹介します。眠りに着く前に読むのがいいんです。
THE MOONMAN
ホフマンタールの夜景に昇った月の中から人が出てきて、丘や池のほとりや並木道を歩き回って頭の上に大きな円弧をえがいて落ちる月の中へ再びはいってしまった。その時、パタン!という音がした。月の人とはちょうど散歩から帰ってきてうしろにドアをしめた自分であったと気がついた。