★Beat Angels

君がすべきことはただ一つ、ニューヨークへ行くことだ -ジャック・ケルアック

短編小説

一日警察署長アミちゃん(後日談)

一日警察署長を無事に勤め上げ、鋭い推理力と直観で難事件の解決にも貢献したアミちゃんはその後も警察署の署員たちの語り草となっていた。 taamori1229.hatenablog.com アミちゃんは一日署長を務めたその日、自由な時間を利用して署内を歩いていろいろな人…

黄昏時のホームで今日も無情に発車のメロディが流れる

とある城下町。駅のホームから見渡せる町並みには会社帰りの乗客を待つ明かりがちらほらと灯り始めるころだった。家路へと向かう乗客で混雑している下りのホームとは裏腹に、人影まばらな上りのホームでは始発電車が刻々と迫る発車の時間を待っていた。 少年…

木枯らし紋次郎に必要なものはすべて人生から学んだ。あ、逆か。

小学校の夏休みの宿題に「動くおもちゃ」というテーマの自由工作があった。それは回転運動を直線運動に変換するいわゆるカムの原理を応用したおもちゃであった。僕は楕円型の円盤を回し上に載ったサーフィンの人形が上下に波乗りをするというものを製作した…

一日警察署長アミちゃん

アイドル歌手のアミちゃんは一日警察署長という大役を仰せつかって東京郊外にあるその町にさっそうとやってきた。 朝、駅前広場で就任式が執り行われた。朝早いのにもかかわらず大勢のファンが押し掛けて歓声を上げていた。そこで制服姿でタスキをかけたアミ…

いつもの朝の向こう側には

最近、休みの朝はできるだけ早く起きて家の近所のファミレスで過ごすことにしている。そこでトーストとコーヒーの簡単な朝食をとり、持ってきたノートとペンでとりとめないことを書き記してのんびりと休日の午前中を過ごすのである。そのファミレスは1階が…

男と女のいる風景

夜は若く、その男も、そしてその女もまた若かった。 男はトレンチコートを着たままひとりその店のカウンターに座っていた。店の一番奥の席、それが男のお気に入りだった。やがて扉が開いて女が現れた。いつもと同じように何も言わず、男のとなり一つ席を空け…

荒場の月

私は中央通路と呼ばれていたところに今でもおかれているベンチに一人腰かけていた。あたりには砂利、廃材、瓦礫などいくつもの山が無造作に積みあげられていた。日が暮れて月が瓦礫の山の向う側に上ると、その山々は黒い影となって私の座るベンチを取り囲ん…

ノブヒコと消費税

ノブヒコと店員の会話。 「お買い上げありがとうございます。消費税込みでちょうど4万円となります」「え?まさか?聞き間違えたかもしれないなあ。もう一度お願い」「消費税込みでちょうど4万円になります」「え?そんなばかなことがあってたまるか。あり得…

海辺の蛍

山肌を縫うように進んでいた電車の車窓からの視界が突然大きく開けて斜めの水平線が飛び込んできた。電車は身をひるがえすようにカーブを曲がった後、速度を落として次の駅が近いことを知らせた。そして僕はこの駅を目的地にすることに決めた。 その頃、テレ…

ニワトリと電球

俺の住んでいる町は、日本で一番殺虫剤が売れる町らしい。なぜかと言うと、ハエの数がハンパではないからだ。では、なぜハエが多いか。それはこの町が日本有数の卵の産地で、養鶏場がいたるところにあり、ニワトリのフンを栄養にしてハエがどんどん産まれる…

青春素数小説(ノブヒコの素数)

ノブヒコという友人と出会ったのは、入社した会社の独房のような寮の中だった。僕が714号室、彼が隣の715号室だった。彼はいきなり部屋に現れるなり、自分は数学科出身だと名乗った。僕も物理学科出身だと話した。入社した会社は電気系の会社だったので理学…

朝のコージ君

横須賀線沿線に住むコージ君の朝は満員の通勤電車で始まる。始発駅の隣の駅から電車に乗り込むのでたいていは席に座ることができる。コージ君の勤める会社は横浜駅の次の新川崎駅にあった。座る席は降りる駅のエスカレータの近くの扉のすぐ横と決めていた。…

ウメとサクラにまつわる話

ウメは若くして両親を亡くし下町にある古びた一軒家に暮らしている。そしてその家の近所にある小さな小料理屋を両親から受けついで細々と営んでいる。年の割に落ち着いているね、ウメはみんなからそうよく言われる。その日も早起きして家と庭先の掃除をすま…

僕たちの7時間戦争(三国志遊戯)

僕が小学5年生の時の話である。僕の通っていた幼稚園は小学校の中にあった。それはすでに別な幼稚園に統合されてなくなっていたが、園舎だけは残っていた。それがここにきて園舎の取り壊しが決まったのだ。昔幼稚園に通っていた大人たちが惜しんで最後に盛…

空想駄菓子屋小説:シンちゃん

その日、僕は仕事先のとある町にいて、踏み切りでぼーっと電車が通り過ぎるのを待ちながら、会社に戻るのをはやめることにした。その日、得意先の社長に新聞広告の企画を一蹴されて追い返されたことも一因だったが、そんなにもは日常茶飯事だったし、どうせ…

やさしい夜のために

神田川の水源は河口からさかのぼること24kmにある三鷹市井之頭池である。御茶ノ水駅から見える優雅な流れとはうらはらにこの川の上流は三鷹市、杉並区、中野区の住宅密集地を流れている。川はまるで悪事でもしでかしたかのようにひっそりと町の裏側をすり抜…

ビーテ狩りの夜

それは僕が小学校3年生の時のことである。学校の昼休み、関先生が赤い実が沢山入ったかごを持って教室の入り口から入ってきた。先生はそれを教卓におくとこう言った。「秋山君のお母さんがビーテを届けてくれました。みんなでいただきましょう。」 先生はそ…

アメリカで蝉の声を聴いて思い出した話

小学校4年の夏休みのことだったと思う。 同級生のツヨシ君にひょうたん沼にカブトムシを取りに来ないか、と誘われた。ひょうたん沼はツヨシ君の家の敷地内にある小さな沼で、昼でもうっそうとした森の中にひっそりとあり、私有地であり人が足を踏み入れない…

幻灯会の夕べ

小学生の頃、お盆の時期になると町内会主催で幻灯会と呼ばれるものが催されていた。それは町外れの公園の花壇の上にスクリーンを設置して行う映画鑑賞会のようなものだ。娯楽の少なかった時代なので町中から大人も子供もうちわを片手にみんな集まってきた。 …

語り部

その地域に昔から伝わる民話や伝説を語り継ぐ人を語り部という。 僕は中学生の頃、学校のクラブ活動で民話伝説クラブに入っていた。クラブの目的はそんな民話を集めることだった。僕がそのクラブに所属していたのはほんの気まぐれだった。どこでもよかったの…

盆踊りの夜

それは僕がまだ幼稚園に入る前の話だから記憶も確かではない。僕たち一家は夏休み、父の実家のある小さな村に来ていた。父は仕事で来るのが遅くなったので母とまだ幼い弟と3人で先に到着していた。祖父は父が幼いころに他界していたので祖母と父の兄弟とそ…

落日

これは私が売れない童話作家として妻と幼い娘の3人でごくごく慎ましい生活を送っていた頃の話である。その頃、私は原稿用紙だけをバッグに詰め込んで山あいの小さな町を旅するのが好きだった。それも滅多に人が訪れないような人里離れた場所を愛していた。…

猫男

1.花園家の邸内 大きな洋風の邸宅、広々とした庭。白のブラウスの娘、洋子がなにかを探すように邸内を歩いている。 洋子「バッキー、バッキーちゃん」 飼い猫バッキーを探し廻る洋子。 2.舗道 邸内を垣根越しに覗ける舗道の淵に腰をかけて、邸内を覗く男…