★Beat Angels

"Don't use the phone, People are never ready to answer it. Use Poetry." - Jack Kerouac

短編小説

最後の晩餐

-え、これ、おいしい!ハンバーガーショップで母が素っ頓狂な声を上げた。その晩、僕たち一家は、近所のハンバーガーショップにいた。ここにくるまでの間、父と母は車の中でずっと言い争いをしていた。いつものことなので僕は気にとめず、持ってきた車のお…

行き先

ある冬の寒い夜のことだった。東京の都心から遠く離れた町で一人の男が道に立ってタクシーを探していた。すでに午前2時を回っていた時分だったのでこの郊外の町では人通りはとっくに途絶え、タクシーはおろか通り過ぎる車さえもまばらだった。タクシーを探…

級友、そして球友(後篇)

taamori1229.hatenablog.com 翌日、体育の授業は僕の運命を決めることになる野球の試合だった。男子が紅組と白組に分かれ5回までの試合をする。女子は審判員と応援団だった。監督も女子がつとめることになり、カオルは僕の属する白組の監督だった。僕はいつ…

級友、そして球友(前篇)

僕は東京の下町にある高校の1年生。自分で言うのもなんだが、学業優秀で教師からも一目置かれる存在だった。だから僕は教室ではいつでもヒーローでいることができた。 その日も英語の授業中、教師から問題が出たされた。わかる人は?といわれて手を挙げたの…

最後のミッション

あいつが死んだことをあいつの奥方からの電話で聞かされたとき、俺は驚いて言葉が出なかった。しかし、それと同時に最後のミッションが発動されたことを理解した。あいつの家で催された通夜の席には懐かしい友人たちの顔もちらほら見えたが俺はそれどころで…

ルリさん

静かな夜のことだった。その年老いた教授は湖畔の洋館の2階にある書斎でひとり本を読んでいた。教授はその日、窓を閉め切ったままで古い書物の整理をしたので、古ぼけた部屋の中にはほこりが舞っている。それでろうそくの炎はちりちりと小さな音をたててい…

里山合戦記

当時小学5年生だった僕と両親は、父の実家のある里山の村にしばらく身を寄せることになった。理由は父が事業で失敗したからだ。というのは実は大分あとから知ったことだった。里山は僕の住んでいた町からはるか遠く離れたところにあり、海を渡り、汽車に乗…

押絵と旅する娘

窓にもたれながら目を覚ますとその男を乗せた電車は音も立てずに夜の底を走っているところだった。男の斜め前の席には一人の娘が座っていて男を見ている。男は中腰になって電車の中を見渡してみたが電車の中には娘と自分の二人しか乗客はいなさそうだった。 …

春、雨、そして梨の花

温かい雨の降る春の日、ぼくは傘の列がすれ違う町の通りを当てもなく歩いていた。そこで不意に呼び止める声を聞いた。大学時代の友人Kであった。振り向いた僕には赤い傘がすっとKの傘の後ろにすっと隠れるように動くのが見えた。そこには楚々とした長い髪…

荒場の月

私は中央通路と呼ばれていたところに今でもおかれているベンチに一人腰かけていた。あたりには砂利、廃材、瓦礫などいくつもの山が無造作に積みあげられていた。日が暮れて月が瓦礫の山の向う側に上ると、その山々は黒い影となって私の座るベンチを取り囲ん…

ノブヒコと消費税

ノブヒコと店員の会話。 「お買い上げありがとうございます。消費税込みでちょうど4万円となります」「え?まさか?聞き間違えたかもしれないなあ。もう一度お願い」「消費税込みでちょうど4万円になります」「え?そんなばかなことがあってたまるか。あり得…

海辺の蛍

山肌を縫うように進んでいた電車の車窓からの視界が突然大きく開けて斜めの水平線が飛び込んできた。電車は身をひるがえすようにカーブを曲がった後、速度を落として次の駅が近いことを知らせた。そして僕はこの駅を目的地にすることに決めた。 その頃、テレ…

木枯らし紋次郎に必要なものはすべて人生から学んだ。あ、逆か。

小学校の夏休みの宿題に「動くおもちゃ」というテーマの自由工作があった。それは回転運動を直線運動に変換するいわゆるカムの原理を応用したおもちゃであった。僕は楕円型の円盤を回し上に載ったサーフィンの人形が上下に波乗りをするというものを製作した…

リカちゃんと滑り台

夕暮れ時、ケンタ君たちは町はずれにある公園の滑り台で遊んでいました。 その公園には近所でも評判の急斜面の滑り台が二つ並んでいました。あまりに傾斜が急なので男の子でも臆病な子は乗れないほどでしたので、女の子たちはめったに滑ることはありませんで…

男と女のいる風景

夜は若く、その男も、そしてその女もまた若かった。男はトレンチコートを着たままひとりその店のカウンターに座っていた。店の一番奥の席、それが男のお気に入りだった。やがて扉が開いて女が現れた。いつもと同じように何も言わず、男のとなり一つ席を空け…

ニワトリと電球

俺の住んでいる町は、日本で一番殺虫剤が売れる町らしい。なぜかと言うと、ハエの数がハンパではないからだ。では、なぜハエが多いか。それはこの町が日本有数の卵の産地で、養鶏場がいたるところにあり、ニワトリのフンを栄養にしてハエがどんどん産まれる…

青春素数小説(ノブヒコの素数)

ノブヒコという友人と出会ったのは、入社した会社の独房のような寮の中だった。僕が714号室、彼が隣の715号室だった。彼はいきなり部屋に現れるなり、自分は数学科出身だと名乗った。僕も物理学科出身だと話した。入社した会社は電気系の会社だったので理学…

一日警察署長アミちゃん(後日談)

一日警察署長を無事に勤め上げ、鋭い推理力と直観で難事件の解決にも貢献したアミちゃんはその後も警察署の署員たちの語り草となっていた。 taamori1229.hatenablog.com アミちゃんは一日署長を務めたその日、自由な時間を利用して署内を歩いていろいろな人…

黄昏時のホームで今日も無情に発車のメロディが流れる

とある城下町。駅のホームから見渡せる町並みには会社帰りの乗客を待つ明かりがちらほらと灯り始めるころだった。家路へと向かう乗客で混雑している下りのホームとは裏腹に、人影まばらな上りのホームでは始発電車が刻々と迫る発車の時間を待っていた。 少年…

朝のコージ君

横須賀線沿線に住むコージ君の朝は満員の通勤電車で始まる。始発駅の隣の駅から電車に乗り込むのでたいていは席に座ることができる。コージ君の勤める会社は横浜駅の次の新川崎駅にあった。座る席は降りる駅のエスカレータの近くの扉のすぐ横と決めていた。…

一日警察署長アミちゃん

アイドル歌手のアミちゃんは一日警察署長という大役を仰せつかって東京郊外にあるその町にさっそうとやってきた。 朝、駅前広場で就任式が執り行われた。朝早いのにもかかわらず大勢のファンが押し掛けて歓声を上げていた。そこで制服姿でタスキをかけたアミ…

ウメとサクラにまつわる話

ウメは若くして両親を亡くし下町にある古びた一軒家に暮らしている。そしてその家の近所にある小さな小料理屋を両親から受けついで細々と営んでいる。年の割に落ち着いているね、ウメはみんなからそうよく言われる。その日も早起きして家と庭先の掃除をすま…

僕たちの7時間戦争(三国志遊戯)

僕が小学5年生の時の話である。僕の通っていた幼稚園は小学校の中にあった。それはすでに別な幼稚園に統合されてなくなっていたが、園舎だけは残っていた。それがここにきて園舎の取り壊しが決まったのだ。昔幼稚園に通っていた大人たちが惜しんで最後に盛…

いつもの朝の向こう側には

最近、休みの朝はできるだけ早く起きて家の近所のファミレスで過ごすことにしている。そこでトーストとコーヒーの簡単な朝食をとり、持ってきたノートとペンでとりとめないことを書き記してのんびりと休日の午前中を過ごすのである。そのファミレスは1階が…

空想駄菓子屋小説:シンちゃん

その日、僕は仕事先のとある町にいて、踏み切りでぼーっと電車が通り過ぎるのを待ちながら、会社に戻るのをはやめることにした。その日、得意先の社長に新聞広告の企画を一蹴されて追い返されたことも一因だったが、そんなにもは日常茶飯事だったし、どうせ…

やさしい夜のために

神田川の水源は河口からさかのぼること24kmにある三鷹市井之頭池である。御茶ノ水駅から見える優雅な流れとはうらはらにこの川の上流は三鷹市、杉並区、中野区の住宅密集地を流れている。川はまるで悪事でもしでかしたかのようにひっそりと町の裏側をすり抜…

ビーテ狩りの夜

それは僕が小学校3年生の時のことである。学校の昼休み、関先生が赤い実が沢山入ったかごを持って教室の入り口から入ってきた。先生はそれを教卓におくとこう言った。「秋山君のお母さんがビーテを届けてくれました。みんなでいただきましょう。」 先生はそ…

アメリカで蝉の声を聴いて思い出した話

小学校4年の夏休みのことだったと思う。 同級生のツヨシ君にひょうたん沼にカブトムシを取りに来ないか、と誘われた。ひょうたん沼はツヨシ君の家の敷地内にある小さな沼で、昼でもうっそうとした森の中にひっそりとあり、私有地であり人が足を踏み入れない…

幻灯会の夕べ

小学生の頃、お盆の時期になると町内会主催で幻灯会と呼ばれるものが催されていた。それは町外れの公園の花壇の上にスクリーンを設置して行う映画鑑賞会のようなものだ。娯楽の少なかった時代なので町中から大人も子供もうちわを片手にみんな集まってきた。 …

語り部

その地域に昔から伝わる民話や伝説を語り継ぐ人を語り部という。 僕は中学生の頃、学校のクラブ活動で民話伝説クラブに入っていた。クラブの目的はそんな民話を集めることだった。僕がそのクラブに所属していたのはほんの気まぐれだった。どこでもよかったの…